住く所無きに投ず

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現代訳

 極めて危険な状況に追い込まれると、逃げ場がなくなるので、もはや恐れを感じなくなる。

 行き場がなくなれば、決死の覚悟が固まり、敵国領内に深く侵入すれば、一致団結する。


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人は不利な状況の方が力を発揮する。


*新入社員の赴任先は、より過酷な地を選べ

 マーケティング本の記事で、ナポレオン・ヒルの名著「思考は現実化する(Think and Grow Rich)」の中で自らが乗ってきた船を焼き払い、少数の兵力で戦場での勝利を収めたジュリアス・シーザーという将軍の話を紹介させて頂きましたが、敵地内に深く侵入するほど、不利になるばかりです。しかし、あえてそのような危険な状況に兵士を追い込むことで、軍隊は一致団結し、奮戦するといいます。そこで、孫子は、自軍を窮地に追い込むことで「底力を発揮させろ!」と言っていますが、これは同じ「九地篇」で、「死地に陥れて然る後に生く」とも説いております。ここでは、“人(部下)を育てる”という視点で見てみます。

 仕事でも、その人の持つ力量内の作業だけをやらせていては、成長はありません。より高いハードルを設定することでより成長するのです。

 とくに、最初が肝心です。簡単に達成できるハードルの仕事をやらせては「こんなものか…」という安心感から、気が緩み、これは後々まで「後遺症」を残すことになります。

 全国展開するような企業では、新入社員の赴任地はたいてい地方になります。しかも、本人にとっても縁もゆかりもない地が選ばれます。


*最初が肝心。甘やかしては後々まで響く

 最初から「いい思い」をしてしまうと忍耐力や闘争心が養われず、新入社員の赴任地は、行ったこともない土地にするわけですが、北海道や東北など冬の寒さが厳しいところに赴任させる際は、秋から冬にかけて現地に赴任させると、成功する確率が高くなるといいます。

 「これは大変なところに来てしまった…」

 という緊張感からスタートすることが、成功の要因となるようです。

 これが、気候のよい春先から夏にかけて赴任すると、「これはいいところに来た」という気のゆるみが生じて、その後伸びなやんでしますのです。

 ビギナーズラックなどで最初に成功したりすると、その後成功体験から発想を変えることができず、その後の“足かせ”となることも多いのですが、これも同様の事例といえるでしょう。