軍争は利たり

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現代訳

 機先を制する戦い(軍争)は、成功すればその利は大きいが、反面、大きな危険を抱えている。

 全軍をあげて、有利な地を敵より先に占めようとすると、大軍では身動きが鈍く、うまくいくものではない。そこで、一部の部隊で有利な地へ乗り込もうとすると、輸送部隊を失うことになる。

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相手の出鼻をくじく


*機先を制すれば、物事を有利に進められる

 孫子は、「機先を制すること」の重要性を説いています。

 ビジネスでも、機先を制することが重要であるといった局面をあちこちで見かけます。例えば、新商品をいかに市場に浸透させるかは、機先は制し、ライバル会社が新商品や類似商品を出す前に、マーケットのシェアを圧倒的なものにしておくことが肝要です。

 また、熾烈な競争を続けるテレビの視聴率争いでも、こんなケースがありました。

 夕方のニュース番組は、内容で差をつけることが困難なため、ある放送局は、これまで午後5時ジャストに始めていた番組を、数分間早めてスタートさせたのです。

 テレビ業界では、これを「フライング・スタート」というそうですが、そのニュース番組は、他局の番組より多くの視聴率をゲットすることに成功したのです。これも、機先を制して成功した一例と言えるでしょう。



*機先を制し、自分に都合の悪い話を切り出せない

 交渉ごとでも機先を制し、主導権を握ることが勝負を左右します。
 
 交渉ごとは、どの会社も相手の会社のペースに引き込まれることなく、自社にとって有利に進めたいものです。相手がこちらにとって都合が悪い話題を切り出そうとしたら、どう対処するか…?

 例えば、こちらが断りにくい話を切り出そうとしたら、こちらが主導権を握るため、その話を最後まで言わせないことです。「言いたいことはわかっている。しかし、その件は絶対に呑めない」

 肝心の申し出が出ないうちに機先を制して、断ってしまうのです。話している途中で相手に断られてしまっては、二の句が告げられなくなり、再び会話の主導権を奪い返すことは難しくなるからです。



*高圧的な言葉で機先を制し、拒絶不能にする

 逆に、相手にこちらの要求を断りにくくすることも、機先を制することで可能になります。それは、「まさか、この件について反対したりはしないだろうけど…」「まさか、これを断ったりしないでしょうけれども…」

 と、相手が反対意見を口にだそうとする前に、このような高圧的な言葉で相手の拒絶を抑えこんえしまうのです。