衆樹の動くものは、来るなり。

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現代訳


 多くの立木がざわめいて動くのは、敵軍が前進している。

 草むらに遮蔽物(しゃへいぶつ)が置かれているのは、伏兵がいると疑わせようとしている。

 鳥が飛び立つのは、伏兵が潜んでいる。

 獣が驚いて飛び出てくるのは、敵の奇襲攻撃を示している。

 砂塵が高く舞い上がって、その先端が鋭く尖っているのは、戦車が進撃している。

 砂塵が低く垂れ込めて横に広がっているのは、歩兵が近づいている。

 塵があちこちに上がっているのは、薪を集めている。

 わずかな砂塵があちこちに上がっているのは、敵が陣を設営している。


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情報は詳細かつ多角的に入手し分析する。


*得意先近所の食堂で得たふとした情報

 印刷会社の営業マン、伊藤修一さん(仮名)の経験です。外回りが多い彼は、食事も外ですませることが多くなります。

 ある得意先を回ったときのことです。すでに夜7時を回っていて、得意先近くの食堂で夕食をすませることにしました。

 よく顔を出す食堂ですが、ここ最近、客足が減っているようです。伊藤さんは何気なく食堂のオバちゃんに尋ねました。


 「最近、お客さんが減っているんじゃないの?」

 「そうなのよぉ~」


 とオバちゃん。そして、眉間にシワを寄せて硬い表情で、伊藤さんの得意先の会社名を挙げながら話しします。

 「そこの会社のお客さんが少なくなったのよ。残業代が大幅にカットされて……。しかも、夜食の補助金や深夜帰宅のタクシー代も出なくなったとかで、みんな早く帰るようになっちゃって。みんな会社に対してブツブツ愚痴を言っていたわ。夜食によく利用してくれる社員さんが多かっただけに、本当に困っちゃうわよ」

 伊藤さんは、その話を何かのついでに上司に伝えました。

 それを聞いた上司はハッとした表情になり、すぐに役員のもとに飛んでいきました。


 「何かマズいことを言ったかな……」


 伊藤さんは不安に駆られます。


 その後、伊藤さんの会社では、その得意先に対する取引条件を変更します。伊藤さんの話に“悪い予感”を感じた上司と経営陣の判断によるものでした。

 「万が一」に備えての対策でしたが、数ヶ月後にその“悪い予感”が的中してしまいます。得意先が倒産してしまったのです。でも、伊藤さんの情報で、会社は被害を最小限に抑えることができました。

 後日、伊藤さんは「お前が食堂のオバちゃんから得てきた情報が、大いに役に立った。経営陣もホッとしている。ありがとう」

 と上司にほめられたそうです。しかし、実のところ伊藤さんは、オバちゃんとの何気ない会話で、はじめのうちはさして深刻に受け止めていなかったといいます。上司にほめられてはじめてことの重大性を知り、それと同時に、

 「情報というのは、いろいろなところに落ちているんだな……」

 と身を持って知り、気を引きしめたといいます。どんなに小さな情報でも、ライバル企業や取引先企業の内情を知ることができれば、ビジネスは大いに有利に働くのです。



*敵もさるもの。ワザと誤報を流すケースも。

 情報の重要性は、例えば、株式投資などでも同じことがいえます。投資を考えている企業の業績や、この先よくなるようであれば投資するでしょうし、不安があるようなら控えるはずです。その投資判断のもとになるのが「情報」です。「企業の経営状態がいいのか、悪いのか?」「新製品の売れ行きが好調のようだ」といった直接的な情報のほかに、


・「新卒の採用人員が大幅に増えた」
・「テレビCMをよく流すようになった」
・「マスコミでよく取り上げられるようになった」

 といった情報も大いに役に立ちます。しかし、ここで注意しなければならないのは、これらの情報は多角的に検討しなければ、“真実”はなかなか把握できないということです。

 大量に新卒を採用して業績が好調のように見せかけて、採用された人たちが就職する前に、倒産してしまったケースもありました。

 「戦場では、敵の目をくらませろ」と孫子は教えていますが、これは、ビジネス現場でも決して稀なケースではないのです